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06:猫伝染性腹膜炎2・診断・治療法 (FIP)
  Feline Infectious Peritonitis (FIP)



総合病院ペットセンター名越 院長 名越公曠
General Hospital Pet Center Nagoshi president Kimihiro Nagoshi D.V.M.

前回は猫伝染性腹膜炎の原因、タイプ、症状についてお話ししました。
今回は診断、治療法についてお話します。

FIPの診断
FIPの症状はしばしば非特徴的でその種類の多さが、多くの症例で診断をしにくくしています。猫が生存中にFIPの陽性の診断をするのがしばしば不可能なことがあります。
このいまいましい状態は主として2つの要素によるものです。
・FIPの影響と症状が様々である。
・FIPの診断検査の解釈が難しい。

もしも、この病気が特定の器官だけに限定されている場合は、ウィルスの全身的感染症というよりは、感染した器官だけの病気を示します。
これが診断名をつけようとする試みを惑わせるのです。

例えば、ドライタイプのFIPの猫の50%以上が目と脳、脊髄あるいは腎臓の症状しか示しません。ドライタイプでの神経症状は不均衡、震え、痙攣、性格の変化、麻痺などです。

診断をする上で更に厄介なのはFIPにかかる以前から持っていた他の疾患です。その病気がFIPにかかりやすくする入り口を開けていたのです。
FIPのほとんど過半数の猫が猫白血病ウイルス(FeLV)に感染しています。

これは猫白血病を起こすだけでなく、様々な病気を起こします。猫が食欲不振、徐々の衰弱を伴う慢性の発熱−FIPの典型的臨床症状−を示している場合には他のいろいろな病気だけでなくFIPの可能性もあるということです。

臨床診断は細かいことの積み重ねの過程にしばしば基づいています。獣医師は以前診察したFIPの猫との類似点から新たなFIPの猫を考察してゆきます。診断は難しく、検査のために腹水(胸水)を採取するまで不可能なこともしばしばです。そのため、ドライタイプのFIPは診断がとても難しいです。

【診断に達するのに重要なのは・・・】
・臨床の病歴
・臨床症状
・腹水又は胸水があればその検査
・検査結果
・眼の検査
・試験的開腹手術とバイオプシー生検
・死後剖検

診断のための検査
FIPの診断を行うための様々な診断的検査法があります。

コロナウィルス抗体検査
この検査法は血中にコロナウィルスの抗体があるかどうかを調べる検査です。キャッテリー、複数飼育(特別に隔離した猫の繁殖コロニーを除く)の大半の健康な猫(60〜90%)はコロナウィルス抗体陰性です。健康な猫でコロナウィルス抗体陽性の猫は以前にコロナウィルス(おそらくはFIPウィルス)に感染したことがあるということを示します。そのような抗体を有する健康な猫のほとんどはFIPを発病しません。

今日、コロナウィルス抗体を持つ猫のうちでどれがFIPを発病するか、またFIPに免疫を持っているのかを予測することはできません。ほとんどの抗体陽性猫(特に高いタイターを持つ猫)は多分、FIPウィルスのキャリアーであり、FIPウィルスを消化器あるいは呼吸器、また両方に隠し持っています。

コロナウィルス抗体陽性猫の中には何ヶ月か立つうちにそれがゼロに消失してしまうものがおり、このことは時間がたつにつれウィルスが自然に離脱する猫がいるということです。抗体価が1:400以上で上記の症状を示す動物はFIPが疑われはしますが、確定的なFIPとはいえません。

急速に腹水(胸水)が貯留し、抗体価が1/25から1/100と低いものもあります。FIP猫の抗体価の上昇は大げさに言われすぎており、効果のない免疫反応と病気の経過を悪くする反応を導きます。

しかし、コロナウィルス抗体検査はいくつかの目的に有用です。
・すべての病気の猫でFIPの疑われる症状を有するもののFIP診断のため
・これまでに検査したことのない猫を飼育していて、コロナウィルス抗体の有無を調べるため
・FIPウィルスに汚染されていない家に新しい猫を飼う場合、それが潜在的なウィルス伝播者とならないようにする。
・FIPの治療を行った際のモニターのため−時間の経過による抗体価の低下(病気の末期を除く)は臨床的(普通は一時的な)再侵入が疑われる。
しかし、FIPの治療に使用する薬品の免疫に対する効果反応(によって検査数値に変化が出ること)も考慮せねばなりません。

腹水(胸水)の検査
FIPのウェットタイプでは腹水や胸水を検査することができます。感染猫から注射器を用い材料となる液体を採取します。猫の中にはこのために鎮静が必要なこともあります。

血液検査
特に病気の後半で、血液検査で貧血が認められることがあります。しかし、貧血は原因に関係なく猫の病気によく見られることです。

試験的開腹とバイオプシー検査
開腹手術とバイオプシー(生態から組織サンプルを採取し、検査する)がFIPの診断に役立ちます。実際、バイオプシー検査は生きている猫のFIPの診断に確実な方法です。FIP猫からのバイオプシーによる採取組織に認められる顕微鏡学的病変はこの疾患に特徴的なものです。しかし、このような手術や組織検査は猫の飼い主に余計な費用負担を強いるものですし、患畜そのものには明らかなリスクを負わせるものです。

他の治療に対する反応
たくさんの猫がその原因がFIPだと強く疑われるようになるまでに病気の治療を受けています。普通、治療に対し、大きな反応がいくつか見られます。しかし、ほぼ大半の例でそれは一時的なものに過ぎません。治療に対する反応は病気の症状ならびに各種検査とともに確定診断に達するのに役立ちます。

その他の検査
FIPの症例の中には、尿検査、レントゲン検査、またまれにその他の特殊検査が診断に使用されることがあります。FIPはそれが有する様々な性質ゆえに、信頼しうる診断にたどり着くまでに検査を繰り返し行うことが要求されます。これらの検査調査には時間と費用とがかかります。

治療
現在、FIPに対する確実な救命治療法はありません。しかし、いくつかの治療法が患畜をより快適にし、この病気による避けられぬ死を遅らせてくれるでしょう。FIPの治療の基本的目的は動物の体内あちこちでおこる広範な炎症反応を軽くすることです。

もっとも効果のある治療法は高濃度のコルチゾル様製剤と抗がん剤と二次感染と戦う広域スペクトル抗生物質の組み合わせです。
抗がん剤は炎症を減らすのに特に有用であり、コルチゾル製剤は食欲を刺激し、元気良く、気持ち良くする効果があります。ビタミンと鉄剤も食欲不振による栄養障害に良い効果をもたらします。輸液も脱水に効果があります。

ときには強制給餌が必要なときもあります。もし、腹水または胸水の貯留で猫が不快がれば、ドレーンによって排液を繰り返す必要もあります。

これらの治療法で猫を生かし続けるには時間も費用も非常にかかります。
治療によって猫は非常に具合がよくなり、時には一時的に全快したかのようになることさえありますが、この病気は無慈悲にも次第にほとんど全ての症例で死への転機をたどります。

残念ながらFIPのワクチン開発の目途は現在のところ暗いものです。しかし、この病気に対する研究は米国、ヨーロッパ、日本で続行されており、将来いつの日にか安全で効果の高いワクチンが開発されることでしょう。


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